いわゆる「103万円の壁」とは、収入から必要経費を差し引いた所得が103万円までの場合、給与所得控除55万円と基礎控除48万円により課税所得が0円となり、所得税がかからない制度です。

しかし、最低賃金の上昇により、働く人が103万円の壁に早く直面し、課税を避けるために勤務時間を減らす傾向が見られます。企業は必要な従業員を確保しづらくなり、特にこれからの年末は経営にも支障をきたす死活問題です。そこで国会では、控除額を178万円まで引き上げ、手取り額を増やす提案がなされています。これは最低賃金の上昇率(約1・73倍)に基づき、現行の控除額103万円を掛けわせて178万円に調整したものです。

控除額が増えることによって税負担が軽減され、手取り額が増えるようになることから、働く意欲が高まり労働力不足の解消にもつながり効果てきめんです。しかし、控除額を引き上げれば、地方税収が減少し、行政サービスにも影響が出る恐れがあります。
さらに、最も重要なのが「130万円の壁」です。年収が130万円を超えると、健康保険料や年金保険料を自分で支払う必要が出てきます。これは税金ではなく、社会保険制度への加入に伴う負担です。

例えば、年収130万円の人が年収150万円に増えた結果、手取り額が増えたとしても、社会保険料の負担で、手取り額が逆に減少する場合があります。
つまり、課税所得と社会保険料の問題は別であることです。

控除額を引き上げても、年収が130万円を超えると社会保険料の負担が発生し、逆に手取り額が減る可能性があることから「130万円の壁」が最も大きい負担ということになります。非常にわかりにくい制度ですが、「103万円の壁」だけでなく、「130万円の壁」も合わせた制度の変更でなければ意味がありません。

一方、立民は「130万円の壁」の事実上の撤廃と給付による補助を提案しています。
年収130万円を超えて200万円までの人を対象に、社会保険料の負担増加分を給付金で補助することで、収入を増やしても手取りが減らないという内容です。これによって、「130万円の壁」による働き控えの解消につながり、さらには、社会保険加入者が増えるため、長期的な社会保障の充実が見込めます。さらに、地方財政への影響も少ないことから、働き手、経営者、地方自治体、三方よしです。ただ一つ、国の財政負担の増加が課題ですが、社会保障制度にかかる費用を国が負担するのは当然です。

今後、最低賃金の上昇や働き方の多様化に伴い、「103万円の壁」や「130万円の壁」に関する政策の実現性や持続性、その財源の確保なども含めて、私たちの生活にどのような影響があるのか、バランスを見ながら注視していく必要があります。